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『けものフレンズ』の各エピソードの完成度についての解説 第1話

雑談・ネタ (94)

『けものフレンズ』1期は全体的なシリーズ構成もさることながら、各エピソードについても非常に完成度が高い

1話につき実質約20分という時間的制約の中で、各話で舞台を変えつつ、ストーリーを盛り上げ、オチをしっかりつけて次話へと繋ぎきっている

エピソードをピックアップして解説してみよう
まずは第1話『さばんなちほー』からだ

このエピソードは作品の幕開けということで、視聴者へ伝えなければならない複数の「必須項目」がある

つまり
・世界観、舞台設定
・主人公のキャラクター、目的
・「相棒」との関係性
といった、シリーズ第1話に必ず要求される要素だ
『さばんなちほー』ではこうした伝達事項をしっかりとクリアしながら、ストーリーの盛り上げにも成功している

各シーンを細かく分割し、約20分間でどのように物語が構築されていたのかを確認してみよう
中盤に挿入される動物解説、エンディングでのOP曲、次話への繋ぎを兼ねたアライグマ一行とPPPのパートを除くと、『さばんなちほー』は21分10秒のエピソードだ
シーンは以下の10個の場面で構成されている

①草原 出会い(0:00 - 4:33)
②草原 旅への出発(4:34 - 5:39)
③岩場・小川 セルリアン(5:40 - 7:54)
④木陰 休憩(7:55 - 9:22)
・解説(9:23 - 9:52)
⑤木登り(9:53 - 10:46)
⑥坂道~池(10:47 - 14:17)
⑦案内板(14:18 - 14:59)
⑧ゲート 大セルリアン(15:00 - 18:00)
⑨ゲート 別れ(18:01 - 20:00)
⑩道 夜(20:01 - 21:41)
三幕構成として考えると

第一幕:①
第二幕:② ~ ⑧
第三幕:⑨⑩

という分割が有力だろう
ミッドポイントは池でカバと出会うシーン(12分10秒ごろ)と思われる
第一幕での設定の提示は非常に端的だ

自分が何のフレンズであるかわからない主人公「かばん」は、サーバルに勧められ、「図書館」へと向かうことにする

つまり作品の大目標として
「図書館へ向かう」
「自分の素性を調べる」
ということが真っ先にはっきりと設定される
第二幕はこの「さばんなちほー」における、かばんとサーバルの旅を主軸として描くものだが、重要な要素に「主人公の成長」がある

第一幕の出会いでも「食べないでください!」という言葉によって明示されているが、主人公かばんは、その肉体的な弱さをエピソード前半で強調される
③の場面で失敗を繰り返し落ち込むかばんを、サーバルは励ます
続く④でもサーバルはかばんの長所を発見しようとする

この、「主人公劣位」とでも言うべき関係性が、本エピソード、さらには『けものフレンズ』という物語全体で重要な要素になっている
「主人公劣位」で始まった物語は、終盤において必ず「主人公優位」を示さねばならない
それこそが物語における「逆転」の爽快感であり、視聴者が物語を観る理由だからだ

問題は、「逆転」の布石がどのように配置されるのかだろう
決して「デウス・エクスマキナ」、つまり唐突なものであってはならない
本エピソードではサーバルとの関係性の中に、逆転の種が蒔かれている

サーバルはまず、失敗するかばんへ笑顔で手を差し伸べて引っ張り上げ、敵を倒し、励まし、尻を押して木の上へと持ち上げる
視聴者にもわかりやすい、頼りになる「相棒」からの無償の奉仕だ
木登りのシーンに続く⑥の坂道で、サーバルの個性、そしてこの作品全体を貫くメッセージが明確になる

坂で足を滑らせ膝をついたたかばんの気配に、サーバルが振り向き心配そうな声を上げる
視聴者の誰もが、再び手が差し伸べられることを期待するシーンだ
ところがかばんは一人で立ち上がり、わずかな微笑みを浮かべて歩き始める
サーバルも無言で、どこか嬉しそうにそれを見つめている
手が差し伸べられることはない

サーバルはかばんの保護者ではなく、かばんもまたサーバルに依存する関係を望んでいない
一人で克服できる困難に対し、もう片方がお節介を焼いたりすることはないのだ
身体能力の優劣があったとしても、ふたりの関係が対等なものであることが、このほんの数秒の、ほぼ無言のシーンで見事に描かれている

わずかな口元の笑み、優しげな視線の表現力が素晴らしい
ミッドポイントにおけるカバの言葉によって、こうした思想は視聴者に対してもはっきりと示される

曰く「パークの掟は自分の力で生きること」だ

サーバルがいかに肉体的に優れていたとしても、かばんは独力で困難を克服する力を身につける必要がある
それが物語の、真の要点でもある
エピソードのクライマックスの前に、もう一つ「種」が蒔かれる
⑦の、かばんが案内板の小箱から地図を取り出すシーンだ
長年ここに暮らしていたサーバルはその存在にすら気づいておらず、箱の開け方もわからない
それは他のフレンズも同様だったことだろう

主人公の特異性が見えてくる
かばんの知能の高さと手先の器用さは、紙飛行機という形になってサーバルの窮地を救う

独力で生きていくことを基本にしつつ、必要な状況では互いの欠点を補うために協力し合う
理想的なパートナーシップが示されたところで、視聴者は主人公の成長を喜び、素直な驚きを見せるサーバルへの愛着を深める
ユニークなのは第三幕で、サーバルは一度かばんとの別れを経て、再びついて来る
これは最終話のラストシーンにおいても繰り返されており、その意図について様々な解釈が可能だろう

解釈の一つは、今後のエピソードを通じて出会い別れるフレンズたちと、サーバルとの差異を示すというものだろうか
別の解釈としては、やはり「独力で生きていく」という思想に基づくものだろう
かばんとサーバルは、なんとなくの成り行きで一緒にいるのではなく、あくまで彼女たちの自由意志による選択の結果として共に旅をしているのだ
孤独であることを認めつつも、自分以外の誰かのために何かを尽くし、それによってより強く他者と結びついていく
第一話の時点で、作品を貫くテーマがはっきりと示されていたことが理解できることだろう

表面的な印象とは逆に、『けものフレンズ』1期は非常に力強い思想をもった物語なのだ